それで大学卒業後、吉祥寺の地元密着の不動産会社に就職するのですが、最初の1年間でやったのは売地の草むしりと売り家の清掃。それを一年間やりました。新入社員でもいろんな部署に配属なってそれぞれの担当業務をしたのですが、たまたま自分が配属されたところはそれ。何やっているのか、と迷いましたよ。何回も迷いました。でも一年間草むしりしていて、不動産のことがよく分かったんです。
例えば、いくつか空き地があって一方は草ぼうぼう、もう一方はきれいに草が刈られてて。どちらを買いたいと思いますか?要は、商品を大切にするということなんです。
一見、「売地」と書いてあって看板が出ていたら誰が持ち主かなんてわからなんですよ。管理会社は書いてあっても誰が売りに出しているのかはわからない。
そこで一生懸命草を刈っていたら、「ここ、誰の土地?」なんて話しかけられるわけです。作業員だと思っていますからね。でも実際は不動産会社の社員ですから、「ここはですね」と話ができる。「きれいにしていて偉いわねぇ」なんて話になって、じゃああなたのところから買うよ、ということに繋がることもある。きちんと管理してくれている、という判断材料になるというわけです。実際にそれで土地が売れることもあって、それは励みになりますよね。草むしりしていて5000万売りあげてしまうのですから。それこそ、成功体験ですよね。
ただ、草をむしらされている、と考えればそれまでですが、そうではないんです。だから次の後輩にも教えるわけですよ。「ただ草むしっていると思うなよ」と。それがわかればいいんですよ。
バブル期でしたが、そういうわけで僕はギラギラした感じというより、お年寄りにとてもかわいがられたんですね。この家を売って老人ホームに入りたいと言われれば、入居先を探してあげたり、そんなこともしていました。
当時は残業も当たり前の時代で、忙しいという気はしませんでしたが、仕事はずっとありました。そういう中でも、やらされている、と思えば、ブラックですが、工夫の中でやっていくことは、やりたいこと。その会社のやり方もよかったと思うし、楽しかったです。
その会社では総務的な仕事も一通り経験させてもらったので、今の事業拡大や起業支援の仕事にも役に立っています。
今まで30年働いてきて、草むしりの1年目が一番収入がよかったんですよ。ずっと現場仕事ですからね。
東京学芸大学を卒業して後期とはいえバブル期の不動産業界で、1年間草むしりと清掃・・。くじけてしまっても無理はない状況だったとは思いますが、これが不動産販売の神髄と心得た、という新入社員。どこでもこういう社員が欲しいと思ってしまいます。
うちで働かないか、という声かけをもらうことはしょっちゅうあって、一度大手の保険会社に勤めたこともあります。2カ月で辞めました。「これは自分には売れない」と。
保険の商品というのはパッケージになっていて、値段も決まっている、要件も決まっている、創意工夫を入れる隙間がないんですね。不動産はいくらでもやりようがあって、値段すら自分の工夫を入れられる。それが面白かったんですね。
その後、製造メーカに8年ほど籍を置きました。コンビニのドリンクの保温ケースや調理器を作るメーカで、従業員数20名くらいの規模なんですがすごく儲かっていた。ニッチな産業で大手が手を出さないところだったんです。
そこにはまず、情報システム構築要員として入社しました。当時はパソコンが出始めの頃。不動産業界時代にシステムを利用していたので、MS-DOSの時代から独学で勉強していて、Accessを使ってデータベースを作ったり。最初はそういうことで採用されたんです。
売り上げはありましたが規模は小さな会社ですから、業務のすべてを経験しました。問題が出たらそこへいって、なんとかする、という風に。人が足りなかったらアルバイトを雇うのか、派遣社員を取るのかといった問題から、開発から生産管理から物流まで関わりました。生産工程の棚卸や改善も行いました。
コンビニで新商品を開発すると相談が来るんです。その商品を保温保冷するもの、調理するものをつくってくれ、という感じです。なので、常に製品開発があって、特にコンビニに卸す商品ですので、店員がだれであっても同じようにできるものでなければならない、サイズも限られている、とたくさんの課題がありました。
その時は大変でしたね、試食が(笑)。
会社がいいとか悪いとか、そんなことは全く意に介さない様子の常松さん。人生を100年計画で、10年程のスパンで、これをやろう、これを得よう、と計画に沿って選び進んできたそうです。ここでまた不動産の波もキャッチして不動産業に戻ります。都心の不動産を扱う会社に入り、ビックサイトの展示会で「土地事情裏話」をテーマに講師を2度務められます。
不動産会社で仕事をしている分には、売るものがあって買う人がいて、ということで成立していましたが、展示会講師などをやってみて広いところに出てみると、また扱っていた商品とは規模の違う不動産商品の相談や質問などを受けるわけです。
今までは家を扱っていたのに、林業をやっているけど一山どうしたらいいのか、みたいなことですね。その時に相続や税金についての業務も経験したいと思うようになりました。
同時に、不動産はピークだな、という思いもあり、次を考えていたこともあります。ちょうどリーマンショックの前でした。