希望と、経験と

新しいことへの挑戦を始めた飯村さん。担当業務の都合による異動と、自分自身の希望による異動が交錯していきます。

新しい事業は、当時は先駆け技術だったBluetoothと、カメラ画像の新しい圧縮技術の二つがありました。それぞれ海外企業と提携していこうということで、先方とやりとりをします。
しばらくしてBluetoothの方で顧客がついたので、こちらをメインでやっていこうということになりました。最初は半導体の部署と兼任だったのですが、取引先から質問がたくさんくるようになってきたので、兼任ではなく専任になりました。
そうこうしているうちに、社内の組織再編があり、僕の部署は、もともとBluetoothに強い製品を保持していた部署と統合になりました。同じ部署で競合する商品は扱わないという会社の方針があったので、僕のいる方のBluetooth事業は、競合しない分野の部署に異動することになりました。僕のキャリアでの異動は今まで三回あったのですが、そのうち二回がBluetooth絡みです(笑)。その最初の異動でした。

異動した先で、改めてBluetooth事業に携わるのですが、思い返すといびつな状態でした。
Bluetooth機能を作るために、コンデンサやコイル、抵抗などいろいろな部品がありますが、きちんと設計しないと動きません。設計の難しい部分だけをモジュール化して販売している企業があるのですが、僕の部署ではこのモジュールを販売する権利を持っていなかったんです。
携帯電話やPCにどんどんBluetoothが搭載され始めていた頃なので、うちの商品も採用していただけるのですが、最終的には同じ機能を持つ他社のモジュールを購入してしまうんです。そのため、どんなにお客様の問題を解決してもキャッシュが生まれない。これじゃあ駄目だということで、その部署でのBluetooth事業はとりやめになってしまいました。
自分の思い通り技術力はついても、今度は会社の貢献としては全くない状態です。はじめに担当した製品がうまく行ったので、これだけ全力を傾けて結果が出ないという事に大きなストレスを感じていました。精神的にもかなり落ち込んでいた時期だったと思います。

Bluetooth事業がなくなったタイミングで、うちの会社に半導体業界では有名な方が入社されました。その方の知識を事業化する基板のコンサルティングの部署を立ち上げる話をいただき、とても面白そうだな、と直感しました。絶対行きたいと思い、すぐに希望を出し、異動が認められました。

三番目の部署では、基板の性能をアップさせるためのコンサルティングを担当しました。情報を伝える基板の線の幅や長さを変えて性能をアップさせるのです。配線がつながっていれば電気は流れますが、それが効率的に伝わるかというとまた別問題なんです。
たとえが難しいけれど、適当な長さの紐を回すと、大きく回っている部分とあまり動いていない部分ができる事があります。紐が動いている部分の大きさが情報を伝えられる量だとして、大きく回っているところで情報を受け取ると情報が伝わりやすいが、あまり回っていないところで情報を受け取ると正確に情報が受け取れなくなってしまう、といったところでしょうか。
車でFMラジオを聞いていても、たまにノイズが混じってしまってあまり受信できない時があると思います。混線してしまう事もあるでしょう。基板で線を引いても紐やFMラジオのように、となりの信号と混線したり、信号が伝わりづらい地点ができたりしてしまうのです。
検証はPC上でシミュレーションできるのですが、部署設立のきっかけとなったコンサルタントの方は、専用ソフトを使わずにご自分で開発したExcelでシミュレーションしていました。専用ソフトだと性能が出なくても、その人のExcelだと出たりする。Excelできめ細やかな設定ができるので、かゆいところに手が届くようなシミュレーションが出来るのだと教えて頂きました。

会社側がこの部署を設立した目的としては、半導体の売買以外のキャッシュポイントが欲しかった、というのがあったと思います。採算は当時まだそれほどありませんでしたが、かなり力を入れている事業だなと感じていました。
僕自身も、異動してほどなくコンサルティング契約がとれて、キャッシュを生み出すことができた、という手応えがあり、充実していました。ずっとここで、基板コンサルティングをしていけたらいいなあと……。
就職活動の時のテーマ「難しいこと理解して、人に伝えるような仕事」はまさにこういったコンサルティングなのだと思っていたのですが、またしてもBluetooth関連での異動となってしまいます。
一回目の部署異動のきっかけとなった提携先が、うちの会社にもっとBluetoothに注力して欲しいと依頼をしてきたのです。そこで、社内でBluetoothを復活させる流れとなり、詳しいことを知っている人として社長から指名を受けたのです。位置づけとしては、Bluetooth異動する前の部署に戻る形での異動となりました。

次のページ

 

1

2

3 4