実変遷していくシステムエンジニアの在り方、自分自身の在り方

一人の企業人として着実にキャリアとスキルを身に着けてきた山岡さん。あることをきっかけに、ずっと内々に抱いてきた想いと向き合うこととなります。

情報システムに戻ってから10年以上勤務しましたが、私が退職してから1年経たず、Tスーパーを経営する企業が倒産してしまいました。最後の数年は、私の目から見ても経営者の施策が後手に回っている、痛みを伴う決断をできずにどんどん手遅れになってしまっている、という状況でしたね。
当時の社長は創業オーナー社長の息子さん、いわゆる二代目社長で、専務は彼の弟、よくある同族経営の会社でした。だからこそのしがらみもあったと思います。システムの立場から「利益をこれだけしか出していない部門に、何千万も投資して新しいシステムを導入することはできない」と意見したりすることもありました。また、現場での経験から、店舗の設計としての規模感と商圏として見込める売り上げの規模感がちぐはぐになってしまっているなと感じ、それも意見してみたこともありました。
業績が下がる一方で人がどんどん辞めていくので、人事、総務、レジ研修、それからタバコの仕入れなど、辞める直前までいろいろな仕事を兼務するようになり、結果として一つの会社の頭からつま先まで全部を経験することになりました。最後の最後は、専務と社長の社内政治的ないさかいに愛想を尽かせる形で退職することとなりました。

Tスーパーを退職してから、またシステム開発で職を探して転職しました。以前の転職から20年経過しているのでインターネット上にも情報があり、社員が2,3人ほどの小さなシステム開発会社に就職しました。ですが入社して数年しないうちにリーマンショックが発生してしまい、その煽りを受けて、新規の仕事が全く入らなくなってしまったんです。既存の取引先のシステムメンテナンスなどの仕事はかろうじてありましたが、これだけでは会社を維持できないのは目に見えています。それなら営業に行くしかないとあちこち尋ねましたが、不況の時に規模の小さなシステム会社では相手にされず、業績は芳しくありませんでした。結局、既存取引先のメンテナンスや保守の仕事は、アルバイト代わりに一人が細々と続けていくくらいのお金にはなるが、会社としての体裁は保てないということで、会社は解散となりました。まだまだ不況の真っ只中なのに勤務先が解散となり、どうしたものかなと数年前から始めていたTwitterに近況を呟いたところ、Excelを専門に扱う株式会社すごい改善の社長からメッセージをいただきました。

すごい改善は今はExcelセミナーがメイン事業ですが、当時はExcel専門のコンサルティングと、Skypeによる個別指導が主な事業でした。起業したばかりだが手が足りなくなってきたので、Skype個別指導を頼みたいとのことでしたので引き受けました。多い時は月に20人以上指導したと記憶しています。半年ほどするとExcelセミナーを開始するので、受講者のサポートをするサブ講師をお願いしたいとのことで、そちらも引き受けるとともに、事業としてSkypeサポートは縮小・終了することになりました。
それからはサブ講師、セミナー受講特典の無期限サポートへの回答、またExcelファイル開発依頼の対応などを担当しました。特にExcelファイル開発は、前職のシステム会社にいた頃から「高いお金を出して専用システムを開発しているけれど、私なら同じようなものをExcelで数日で作れてしまうな」と感じていたので、まさしくそれが実現した形となりました。データやシステムを取り扱う環境も日々変わっているので、簡単に済ませられるものはどんどん簡単になって行くだろう、専用システムから汎用性のあるExcelやGoogleスプレッドシートなどにかわっているのは必然なのかもしれません。

すごい改善は役員となり経営にも参画していましたが、実の母が亡くなったことをきっかけに辞任しました。その後は顧問として関わっています。母が亡くなったことで、自分の立場が揺らいだというか、モチベーションを失ってしまったというか、そんな心地になってしまったんです。山岡家に長男として生まれた役目は親を看取り子孫を残すことだ、という考えが、常にどこかにあるんですね。子供たちももう一人で何とか生きていけるくらいには大きくなり、父も母も亡くなったことで、役目が終わった、と思ってしまったんですね。大学や就職先、転職先を選ぶ時もずっと「いつかは地元にもどり、山岡家で長男としての役目を果たす」ことを念頭に選択をしてきたので、それがなくなってしまい、自分は何者なのか、ということが分からなくなってしまったんだと思います。

今はすごい改善でExcel関連の顧問と、人の伝手で引き受けている既存ソフトの保守作業をやるくらいです。新規の仕事のご相談をいただくことがないわけではないのですが、そういうのはこちらにどうぞ、と他の人やクラウドビジネスマッチングサイトのようなところを紹介して丸投げしてしまいます。ソフトウェア開発では、開発する側の技術が必要なのはもちろんですが、依頼する側は依頼する側で技術が必要なんですね。自分のやりたいことを取りまとめて伝えたり、システムで出来ることと出来ないことを整理したり、そういったスキルが必要です。新規案件だと、依頼する人がどれくらいの技術を持っているか分からないですから、もしかすると要件定義までにものすごくたくさんやり取りをしないといけないですよね。そういった手間と、開発として受け取る価格を考えると、割に合わないなと、引き受けないと決めています。

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