現場を知り、結果を出せる人こそが強い!

地元でのシステムエンジニア職としての求職に難航していた山岡さん。次の就職先では、エンジニアの技術だけではないスキルを身に着けていきます。

次の就職先は、新聞の求人広告で見つけたTスーパーマーケットの本部電算室でした。システムに関するあらゆることを請け負う部署で、経理、人事、営業の受発注や売上集計などあらゆる業務に携わりました。ちょうどPOSシステムを試験的に導入した頃なので、その活用も考えているような時期の入社でした。HシステムエンジニアリングとE電機では、企業の発注を受けてシステムの開発を行いましたが、今度は発注する側になったということですね。ちょうど昭和の終わりから平成になるような時代だったので、年号が変わったり、消費税が導入されたり、プライベートで結婚したりと慌ただしい日々でした。

こちらは通算20年弱在籍したのですが、入社してしばらくすると、電算室での仕事に限界を感じるようになりました。Tスーパーの現場での経験がない私は、社内の他部署の人と話す時にどうしても相対的に立場が弱く、意見を言っても対等に受け取ってもらえなかったんです。理論上は私の方が正しくても、相手は窮すると「山岡さんは現場を知らないから……」と言われてしまう。現場を知らないから話を聞いてもらえず、評価も低いままで、これではこの会社の上層部に行くことはできないなと。ただ、システム開発の経験上から、理論上は正しくても現場には当てはまらないことがたくさんあるのは重々承知していました。だからこそ現場に行きたいとずっと希望を出し続けていたんです。希望がかなったのは入社してから6年目のことでした。

現場の配属は、本社でのキャリアがあるので副店長格としての異動でしたが、新人として一から学びます。旗艦店舗で半年ほど研修した後、小規模店舗の鮮魚コーナーに配属されました。私は実家が漁師なので、鮮魚コーナー配属は全くの偶然ですが、魚のことは詳しいし、捌くのも上手かったのでしてやったりと思いましたね。最初は「本社の電算室の人が鮮魚のこと分かるわけないだろう」とタカをくくっていた同僚も、私がすっすっと魚を捌いて綺麗に盛り付けるのを見て閉口してしまい、胸がすくような気分でした。魚を捌きつつ、売上を大幅増させるなど数字に残る形で副店長としての職務もこなしていきました。

現場時代はとても楽しく、好き勝手にやらせていただきました。売り場の商品ラインナップは本社から指示があるのですが、それを無視して自分の分析や予測にのっとって変えてしまったり。買い付けを担当するバイヤーは本社で顔見知りでしたので、「ラインナップ変えたいなら言ってよ、山岡さん!」「いいじゃないか、手間が省けただろ」と軽口をたたき合ったりもしました。好き勝手はしましたが、売上倍増という目に見える数字での結果を残していたので、頭ごなしに否定されるようなことはありませんでしたね。ゴニョゴニョ言ってきても「結果として売れているんだからいいじゃないか、前に戻して売上が落ちた方がいい?」と返すと、売れる方がいい、となります。世の中やはり目に見える結果が持つ力は大きく、意見や文句を言うならまず結果を出すことが一番手っ取り早いのだなと改めて感じました。

現場は楽しく得るものも多かったのですが、1年半、2年しないほどで本社に戻りました。電算部、名称改め情報システム部は私の異動後は2人所属していたのですが、そのうちの1人が退職することになり、私に戻ってきてほしいと打診されたため、承諾しました。現場を経験した後なので、以前に比べて立場が強くなり、誰もが対等に話を聞いてくれるようになりました。
当時、IT界隈で話題になっていた「2000年問題」への対処のためのシステム入替、POSシステムを会社が模範としている企業の導入事例を参考に全面入替するなどを実施しました。 こうしたシステム入替や導入は、システムエンジニアとしての技量と言うよりは社内政治やプロジェクトマネジメントの手腕が問われます。POS入替では、専務の意向で取引したい企業と現場で必要な機能を備えた機器を持つ企業が異なっており、前任者はそのギャップをうまく解消できなかったようでした。導入したかった企業の機器は、加盟していたAJS(オール日本スーパーマーケット協会)で会社の経営陣が模範としている某企業でも導入されていたので、導入事例を引き合いに出すなどして企業入替の必要性を明確にプレゼンし、希望通りの機器の導入に成功しました。
機器入替と一言でいっても、何億もかかる巨大プロジェクトだったので、経営者目線では馴染みのある既存企業で続投したいという気持ちも分からなくはないですが、それだけの理由で現場が必要とする機能を諦めることはできませんからね。論理的に説明して、誰も反論できないような状態まで持って行ったので、最終的にはスムーズな導入となりました。実際に機器入替は、2か月間ほぼ休みなしで一気に進めましたが、無茶なスケジュールだったので今はもうとてもできないですね。

システム入替の後は特に大きなシステム導入などもなく、ルーティンやメンテナンス業務が主でした。新しいシステムを素人がちょこっと開発できるような状況ではなくなってきていましたからね。新規導入となると何千万もかかるし、必要なものはすべて揃っている状態です。なので変な話、暇を持て余しているような状態でした。Excelの機能や操作を覚えたのはこの頃ですね。ソフトを開いて端から順に「これは何のボタンだろう」と調べたりしていました。

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