41回目の平常心で挑んだ、ここ一番の大舞台

社会保険労務士としてはかなりユニークなキャリアを歩み始めた湯澤さん。人事時代から何度もあったというハラスメント問題に焦点を当て、専門性を高めていきます。

新しい事業を模索するにあたって、セクハラやパワハラといったハラスメント分野に注目していました。そんな時「ハラスメント防止コンサルタント」という資格を知り、「社労士がハラスメント問題を解決します」より、「ハラスメント防止コンサルタントで、社労士でもあります」の方が何をやっているのかパッと分かりやすいのではと考え、資格を取得しました。この資格の運営母体ではハラスメント防止に関する講演も開催していて、その客員講師を認定するオーディションも受け、合格しました。

合格当初は「そんなに講演依頼があるわけではありませんよ」と言われていましたが、合格して数日後に依頼がありました。そこでご好評をいただき、頻繁に依頼がくるようになりましたね。客員講師はベテランで年配の方が多いため、当時40歳になったばかりの私でも若手、最年少の部類だったんです。講演先によっては若い講師を希望するところもありますから、そうした理由も含めてオーダーが来るようになったのでした。ハラスメント防止コンサルタント客員講師としては、50回以上は登壇したと記憶しています。

登壇に慣れてくると、次第に運営が用意したコンテンツに疑問を持つようになりました。講演では、基本的に与えられたコンテンツに沿って進めていくのですが、前職や社労士の経験から、コンテンツにはないけれど受講者に伝えたいことがたくさん出てきました。これを伝えることが出来たら、もっとよくなるのに、解決してあげられるのに。何もできないことが苦しくなってきた頃、ある教育エージェント会社から「大手通信系インフラ会社S社で企業内研修をしてくれないか」との依頼がありました。私の無料セミナーをS社の研修視察担当者が受講していたようで、私の話を聴き、ぜひ湯澤さんに当社でも、というオファーでした。客員講師以外での講演は、実に10年ぶりの依頼でした。

S社は何しろ規模が大きいので、初回の依頼で、4時間30分の研修を14回分やってほしいとのことでした。客員講師としての登壇は1時間や2時間が主だったので、そんな長丁場も、こんな回数も全くやったことがありません。そのかわり、コンテンツに縛りはないので、お客様と打合せをしてOKがもらえれば、私が話したいことを話せます。お声をかけてくださったS社、教育エージェント会社の顔に泥を塗るわけにはいきませんので、考えた末に4時間半の研修のリハーサルを40回、しかも「同じスライドを見て全部違う言葉で話す」というルールを決めてやることにしました。これだけやれば、本番で緊張して頭が真っ白になってしまった時でも、自然と言葉が出てくるようになるだろうと思ったんです。S社研修の第1回目の登壇かもしれないけれど、「自分にとっては41回目の登壇なのだから、絶対に成功する、大丈夫」という姿勢で自分を鼓舞し、「絶対に40回やり抜くぞ!」とリハーサルの実践を継続しました。本当にリハーサルを40回みっちりやったんです。

そうして準備して挑んだ本番の研修では、受講者の他に、S社のオブザーバーの方が後ろに並んで聴講していました。時間通りに研修を終えてほっとしていると、教育エージェント会社の担当者とオブザーバーが何人も話し込んでいます。どうしたんだろうとハラハラしていると、「うちでもでもやってほしい」「〇〇部からも依頼したい」というお話を頂戴していたのでした。そこから次の依頼、次の依頼、とつながり、現在に至ります。

現在は、社会保険労務士として主に3つの事業を運営しています。1つ目は顧問契約による高難度労務問題への常時相談対応業務。2つ目は企業研修、3つ目はパワハラWeb診断ツールの販売です。

1つ目の高難度労務問題の常時相談対応は、その会社の中で前例のない人事トラブルや、恣意的・感情的に社内での対処が難しい事例、書籍などに類似ケースが載っていない稀な事例についての解決支援をしています。そうした事例は白黒はっきりつけるのが難しいグレーゾーンの判断が求められることが多く、弁護士からは杓子定規な回答だったり、役所に聞いても結論が出なかったり、なかなか納得できる解決方法が見つからないんです。そうした事例に、クライアントとは違う目線を持ちながら同じゴールを目指す、を信条に対応させていただいています。解決方法を提案するときは、専門用語を使わないことを心掛け、クライアントが腑に落ちる方法を選択できるように心がけています。高難度労務問題顧問の事業は立ち上げてから18年経ち、おかげさまで17,000件以上の解決支援をさせていただきました。

2つ目の企業研修は、パワハラ、コンプライアンス、ダイバーシティ、働き方改革の4つが主なコンテンツです。2013年から企業研修事業を立ち上げ、のべ550回、受講者総数で30,000人近くの方にご受講いただきました。クライアントは大手上場企業様とそのグループ企業様が多く、出張に行くこともあります。なお、2020年現在は、新型コロナウイルス禍によって、オンライン研修に切り替わってきています。コンテンツ内容はある程度の型はありますが、ご要望に応じてカスタムすることが多いですね。企業研修では「盲点に気づきを与える」「自発的行動変容を促す」をモットーにコンテンツを構築しています。誰にでも理解できる言葉を使い、研修後にすぐ行動できるような提案も織り込みます。おかげさまでご好評いただき、リピートをいただくことも多いです。

3つ目のパワハラWeb診断ツールは、有限会社グローイングの平井社長と共同開発した管理職教育用パワハラ予防適性検査「パワハラ振り返りシート」を使います。およそ10分ほどで回答できる質問に答えると、その人のパワハラリスク度等が分かるように設計しています。パワハラをする人は、他者に共感しない、自信過剰などある程度ロールモデルがあるのですが、この診断でパワハラのリスク度等を判定し、自分自身にパワハラの芽があるかどうかを気づくことができるようになっています。研修内でもワークなどで気づきの機会を設けていますが、この「パワハラ振り返りシート」なら更に客観的な結果が出るので、研修時に本格的な導入をご提案させていただくこともあります。 高難度労務問題解決、企業研修、パワハラWeb診断、それぞれをうまくドッキングさせて、相乗効果が発生させられることが、社会保険労務士としての私の強みだと自負しています。

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