ジョブホッパー、事務所を持たない社労士になる

「人を大切にしていないと感情的になってしまい、後先考えずにやめてしまう」と仰る湯澤さん。経理ではなく人事のキャリアを極めることを決意し、就職活動の苦境を乗り越えます。

G社は結果として1年強在籍し、残業が月に100時間を超えるような激務でした。親会社やもともとの母体企業など、同じ会社の中に様々なルーツを持つ人材が混在しているような状況でした。人事部は8人ほど、採用担当、給与計算担当、労務担当、のように一つの業務を一人が担当という様相でした。私は労務や社会保険関連の業務を担当し、あるプロジェクトを遂行することになったのですが、決裁を求めて稟議を役員に持って行っても決裁が下りないんです。事前に決裁者である専務に金額などを口頭で説明して了承をとりつけても、実際の試算を持って行くと、こんな金額払えない、とつっぱねられてしまい、本当に困りました。

プロジェクトの内容にかかわる当事者の方からも、給与の手取り額などが変わるので、反対の声がたくさんあり、プロジェクトを進めていくのは本当に骨が折れました。そうした状況なのに、専務が推す案はあこぎというか、えげつないやり方で、これじゃダメだと人事部長と課長に訴え続けました。すると「そんなに言うなら自分でプレゼンしてみろ、援護するから」と言っていただき、専務プレゼンに挑みました。3人で入室したプレゼンの場、専務の他に副社長も臨席する中、現在の状況、現実的で配慮あるアプローチの必要性などを必死に説明して……「そうですよね、部長、課長!」と後ろを振り向くと、部長と課長はうつむいて、私と目を合わせようとしなかったんです。その様子に腹が立って腹が立って、「援護するって言っただろ! こんなやり方じゃ無理だ、お前がやれ!」と叫んで部屋を飛び出しました。部長も課長も慌てて追いかけてきましたが、「あんたたちがやれ、私はもう辞める、明日から来ない」と怒りの勢いで宣言してしまいました。行政からも厳しい指導が入る中、当事者の心情を無視したやり方を推す専務も、それがまかり通ることに何も言えない部長と課長も、何もかもが嫌になってしまいました。人のことをもう少し考えませんか、と言ってやりたくてたまりませんでした。

またしても怒りに任せて退職を決めてしまったので、本当に後先考えていませんでした。結果として退職日がボーナス支給日の2日前でしたからね、惜しかったです(笑)。その後の就職活動はそれまでで一番苦労しました。ただ在籍中に社労士試験に合格しており、G社で顧問をされていた社労士の先生に退職や就職活動の近況を報告すると、仕事を少し手伝ってくれないか、と声をかけて頂きました。先生の事務所と業務委託契約をさせていただき、社労士としてのキャリアがスタートしました。

社労士の先生が紹介してくださったのは、先生の顧問先に週2日訪問し、常駐して労務問題の相談を受けるというものでした。先方も「先生は気が引けるけれど、湯澤さんならなら気軽に相談できる」と喜んでくださいました。更に、E社の元社長で退職後も交流させていただいた方から、その方が非常勤顧問をしている先にやはり週2日ほど来てほしいと頼まれました。更に公認会計士の方からも、紹介したい企業があるということで、その会社の社長と面談し、週1日来て欲しい、と依頼があり、合わせて週5日の勤務となりました。

事務所を持たずに先方に出向くという働き方はなかなかいいな、と気に入っていました。業務内容としては、今までの私の経験を話すだけでもとても参考になると喜んでくれ、本当にいろいろな相談に乗りました。ある企業では、その会社の名刺を持たせていただき、採用面接や、転職エージェントとの交渉、採用や面談の結果のレポート作成なども行いました。実質的には非常勤の人事マネージャーといった立場だったと思います。 常勤スタイルでの労務相談にニーズを感じていたものの、私一人では契約数を増やせないのが悩みでした。そこで、常駐スタイルをフェードアウトするために、客先には「人事マネージャーや正社員を雇い、常勤から顧問契約に変えましょう、変わらず相談に乗りますから」と提案し、働き方を変えていきました。顧問契約の数が増えると契約書類なども増えてくるので、さすがにそろそろ物理的な事務所が必要になってきました。そこで自宅兼事務所となる物件を借り、アルバイトを1人雇って事務処理をしてもらうスタイルになりました。更に件数が増えてきた頃、今のオフィス物件が空いているよとご紹介いただき、そこに入居することにしました。2002年8月に湯澤社会保険労務士事務所として開業していましたが、2005年に事務所開設と相成りました。事務所を構えたのでアルバイトの人数も増やそうとしたのですがなかなか定着せず、採用した方とのミスマッチの連続に疲れてしまって、人を増やして仕事を増やすのではなく、人を増やさなくても売上を増やせる仕事はないかな、と模索し、現在の高難度労務問題対応、企業研修やWeb検査の導入などにつながっていきました。

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