頂点のその先へ……
~働くことは生きる証、これららも輝き続けたい~
水口 智恵美(みなくち ちえみ)さん
兵庫県在住。C.O.P.コンサルティング代表。整理収納アドバイザー2級認定講師、整理収納アドバイザー1級、その他保持資格多数。主催・登壇セミナー多数。事務アルバイト時代に整理収納アドバイザーと出会い、資格取得、独立を決意。資格取得後はアシスタント、人材派遣サービスF社との業務提携。業務提携時代は関西エリアトップの売上を記録した。その後独立、個人向けお片付けサービス「ちぃのおかたづけポケット」、企業研修部門「京桜収納コンサルティング」を運営。両サービスを2019年8月に「C.O.P.コンサルティング」へと統合。ビジョン達成を目指す社内環境創りをキーワードに、片付け・整理収納を通して業務に関わる人の想いや強みを引き出し、継続できる仕組みづくりをサポートしている。プライベートでの趣味はお菓子作り。
人はいくつになっても進化・成長できる
現在に続くキャリアの始まりは、なかなか大変だったと語る水口さん。ママ友からいただいたご縁から、仕事をする楽しさを見出していきます。
子供が二人おりまして、下の子が小学六年生になるまで、ずっと専業主婦でした。結婚前は保育士をしていましたが、結婚を機に退職して、それからずっとですね。ママ友それぞれが子供に手がかからなくなってきて、みんな何かしらの形で働き始めるような時期でした。それなら私もと職を探し始めたのですが、当時は「三十五歳の壁」というのがあって、なかなか採用されず、思うようにいかないなと思っていた頃、ママ友から自分がいま受けている仕事を引き継がないか、と声をかけていただきました。
ママ友から紹介されたのは、役所で行う商業調査や統計調査の実地作業をする調査員で、その都度短期で依頼を受ける、という仕事でした。ブランクが長い私にとって、短期の仕事は少しずつ慣れていけそうで魅力的に思え、お引き受けさせていただきました。当時、調査員は調査結果を納品するまでが仕事でしたが、その調査結果をチェック・集計するという業務もあり、そちらも併せてやらせていただくことになりました。調査員は在宅で作業したり調査対象の現地に伺いますが、集計業務は役所内に専用のデスクがあり、業務がある時は役所に出勤して、九時から十七時まで作業する、という形でした。集計業務は私含め二人おり、もう一人は年上の女性の方でした。一年ほど調査員と集計業務を掛け持ちしていると、彼女から介護保険課で週二日勤務のスタッフを募集しているよ、と声をかけて頂きました。私としても短期の二つの仕事に慣れてきて、そろそろ定期的に働きたいなと考えていた頃だったので、とてもありがたく、喜んで引き受けさせて頂きました。
こうして介護保険課で週二日の事務作業の勤務が始まりました。曜日によって一つのデスクを二人が共有するというスタイルでした。主な業務内容は、介護保険の適用を希望する方に対して主治医が書いた意見書を、OCRに取り込んでヌケモレをチェックするというもので、介護保険の審査会に提出されて、介護度などを決定していく重要な書類です。絶対に間違ってはいけないとおっかなびっくりで仕事をスタートし、先輩が作ってくださったマニュアルを見たり、周囲の方に教えていただいたりしながら覚えていきました。当時私は、全くと言っていいほどPCが使えなかったんです。「上書き保存しながら作業してね」「終わったら閉じてね」と言われても、上書きって何!? 閉じるってどうやるの!? といった状態です。しかし、介護保険課での仕事は、まずOCRで意見書を取り込んで、その内容をチェックして、システムに入力して……と、何から何までPCでの作業です。あまりにも知らなくて、これはまずいなと、自主的にPC教室に通ったりもしました。
アルバイトということで、最初は職員の方ともどこか一線を引いた関わり方でしたが、介護保険課のリーダーとしてAさんという新しい方が赴任されてから、その方の方針でいろいろな業務に関わらせていただけるようになりました。例えば介護保険課の窓口にいらした方の、最初の受付とヒアリングもさせていただく様になりました。申請内容や添付書類のヌケモレを見てさしあげたり、職員さんやケアマネジャーさんに引き継ぐまでお話を伺ったりしていました。しかし、リフォームやデイケアといった専門的なご提案となると専門知識がない私では対応いたしかねるので、担当の職員さんに繋げる、という感じでした。最初の応対を私達アルバイトがすることで、職員さんの業務の手を止める回数が少なくなるため、とても喜んでいただけました。
私の業務が増えたからと言って、役職や手当てがつくというわけではなかったのですが、おばちゃんは誰かの役に立てることが嬉しかったんです! いろいろなことを教えていただいて、たくさんの事を吸収させていただきました。保育士時代は小さなお子さんの進化と成長を見守らせていただいたのですが、人生後半戦、人は四十代、五十代になっても、新しいことを学んで成長できるんだという事を、自分自身の変化を通し確信していきました。
A上司が私達アルバイトも課内を運営する歯車の一つとして扱ってくださった経験は、「片付けを通して組織のコミュニケーションも整える」という今の仕事に活かされていると感じています。調査員、集計業務、介護保険課の事務の三つの草鞋状態でしたが、集計業務は比較的すぐに他の方と交代しました。調査員は退職する二年ほど前まで続けていましたが、介護保険課の日数が二日から三日に増えたため、最後の方は他の方にお譲りしました。
退職の二年前、現状の仕事の元となる整理収納アドバイザーの資格を取得しました。整理収納アドバイザー資格取得のきっかけは、職場の書類管理でした。私の担当業務の一つに、厚紙を二つに折った個別フォルダを使って書類管理をする仕事がありました。ラベリングした個別フォルダを、キャビネに並べて書類を収納していきます。年度が替わると古いものをとりまとめて書庫に移し保存するサポートを致します。初めて触れたこの個別フォルダでの書類管理が目新しくとても面白いなと感じていた時、地域情報誌で個人向けの書類整理セミナーが開催されているのを知り、勉強してみたくなり受講しました。
書類整理セミナーの講師は、整理収納アドバイザーの資格もお持ちの方でした。セミナーを聞くにつれ、面白そうだな、私もこの資格を取ってみたいと思った矢先、別の日に開催される1Day講座で整理収納アドバイザーの資格が取得できる事を知り、申し込みました。ところが1Day講座を受講してみると、ここで取得できる のは整理収納アドバイザー2級で、あくまでもご家庭や職場内で知識を活用していただくようなもの。整理収納を仕事にするなら1級を取得しないといけない、という事を改めて知りました。未知の世界に対する不安な気持ちを抱えつつも、「絶対に資格を取って、独立して仕事をしていきたい」と考え始めていた私は、1級資格取得講座に申し込みました。
当時の整理収納アドバイザー1級取得は、まず二日間の講義を受け、一か月後に試験を受けるというスタイルでした。試験は筆記とプレゼンテーションがあり、この両方に合格して、ようやく資格取得となるのです。試験を受けるなんて学生の頃以来なので、講義が終わってから一か月間、どうしよう、どうしよう、ばかり考えていました。転んで怪我をすればこの試験は受けなくて済むんじゃないか、なんて急に弱気になってバカなことを考えたりして……(笑)。特に論述は、覚えているはずなのに、紙に書くとなると思い出せなくなってしまう。その論述問題がA3用紙で二枚分あるとの事で、必死に理論を覚えました。最初の一週間は全く頭に入らずかなり凹みました……ところが、一週間ほどした時に、頭が「パカッ!」と開いたんです。なんか本当に、パカッと音がして、そこからスーッと知識や言葉が入るようになりました。
プレゼンは整理収納の実践レポートで、「自宅の和洋室を私の整理収納アドバイザーの発信基地に改造する」というコンセプトで挑戦しました。ここでもPC操作に苦労させられました。画像の挿入だとか、四角や矢印をどうやって出したらいいのか分からない! これはもう誰かに聞くしかないなと、昼休みにごはんを急いで食べて、アルバイトを重用して下さった例のA上司に教えて頂きました。「一体何をしとるんや」と聞かれたので、正直に整理収納アドバイザーのことを話すと、A上司は「頑張れ!」と応援して下さいました。それ以来、図形の操作を細かく教えていただいたり、プレゼン資料が出来あがると目を通して下さったり、本当に温かなお力添えをいただきました。また、合格の願掛けにと行った『大好きなアンコ断ち』にも、職場の方だけでなく娘まで協力してくれるなど、頑張ろうと決心した時に、それを応援・協力して下さる人たちが周囲に居て下さる事は、本当にありがたく感謝の気持ちで一杯でした。
そんな身近な応援団のおかげさまで課題を仕上げることが出来て、整理収納アドバイザー1級にも一発で合格することが出来ました。上書き保存のやり方も知らなかった私が、PCで写真や図形を使ってレポートを作ることが出来たということは、とても嬉しく素晴らしい達成感でした。整理収納アドバイザーという資格があることを知り、アルバイトではなく責任ある立場でやってみたい、自分自身が最後までお相手に寄り添う事が出来る仕事をしたい、そして何より面白そうだなと思って始めたことが叶った瞬間でした。