人事の「お客様」は誰なのか?

後藤さんは、常に社員と向き合う人事だからこそ、経営目標にしっかりコミットすることが大切だと考えています。時には苦しい思いをすることもあるそうです……。

今人事という仕事は、人間を大切にするという事だと思います。でも、人を愛してはいけない。いや、愛してはいけないわけではないのですが、それだけでは駄目なんです。
人事がコミットするのはあくまでも経営目標ですから、経営のための決断をしなくちゃいけないのに、当人の顔がちらついたりして、苦しい思いをするようなこともあります。会社の歯車にすりつぶされているような人を見なくちゃいけないこともあるし、ケースによっては自分がその歯車を回さないといけないこともある。それで、更にフォローもしないといけない……。
でも、誰それさんがいい人だから、大好きだから、という理由だけで、経営にとって必要な判断を曇らせるわけにもいきません。経営目標のために、誰かの給与を下げざるを得なかったりね。愛するだけでは済まないのが人事ですね。

「人事はグレーを生きていく」と、僕の尊敬する方がよく仰ってましたね。白黒はっきり分けることはできなくて、グレーの濃淡があるようなイメージ。その濃淡も日によって変えなきゃいけなかったりする。矛盾を孕みながらやっていかなければいけないんです。

もちろん人が成長していくのを間近で見られる喜びもあるので、いいことも悪いことも自分の手の中にあるようなイメージです。

それでもしんどくて、自分のメンタルまで影響があるような時は、プライベートでうまく発散するようにしています。娘と遊んだり、妻と漫画を読んだり。

人事のセミナーで登壇された方に、「会社を出たら仕事を忘れるように」なんて言われたことがあります。それでも本当に悩んでいる時は夢に出てきたりしますけど(笑)。僕の場合は、帰りの通勤電車の中でスイッチが切り替わっていきます。

そういう点で、経営者は責任が重く、仕事のことを二十四時間忘れられないでしょうから、大変だろうなと思います。だから僕は独立とかは全く考えていません、経営者の方を尊敬しています。

かといって、今の会社にずっと勤めるかというと、それも分からない。ただ、万一今の会社を畳むとなると、会社という船から人を降ろす仕事があるので、それは自分がやらないとな、と。自分のやるべきことを投げ出さない。何より、自分は教育屋なので、人の成長を見ていきたい思いが強いです。

今、人事として働くことは楽しいですが、自分のために働いている感覚はないですね。いつも社員の誰それさんだとか、誰かの心配をしている気がします。家族のために割り切ってイヤイヤ仕事をしているというわけでもないです。価値ある仕事をしている人に活躍してもらいたいですね。

よく言われる、「総務や人事のお客様は社員です」という言葉があまり好きじゃないんです。社員をお客様と捉えてしまうと、結果としてコストが上がってしまう。お高いコーヒーサーバーを入れたりね。お客様はあくまでもお客様であり、クライアントです。研修をした結果、社員が良くなるのではなく、自社のサービスや商品がよくなると言えるようにならないといけないと思います。

僕はいつも、会社というと船のイメージがあるのですが、船がちゃんと目的地に着くようにやるべきことをしようと思っています。愛社精神は、船を大事にするという事になるのかな。船もですが、乗組員をより大事にしていきたいです。

未来では、得意なことで働くことが出来るような社会になっていたらいいですね。地域に根差した、人と人とのつながりが大切になっていくような気がします。

会社の看板が大切なのではなく、困っている人がいて、出来る人がそれを助けるような、優しい世界になって行ったらいいなと思います。

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