ターニングポイントはずっと続いているのかもしれない

自分は何者なんだろう、というご自身への問いかけを何度も話されていた上口さん。お父様からの影響と、ご自身の適性についても教えてくださいました。

たった一つのターニングポイントがなにか、と考えるとすごく難しいですね。わたしにとっては、振り返ってみるとすごくたくさんのターニングポイントがあるなと感じます。なんとなくターニングポイントという言葉からは、人生の中で大きな出来事が一つあって、ごそっと、グワーッと人生が一変するようなイメージがありますけど。わたしは一つというよりは、ぼつ、ぼつ、ぼつ、と複数ある感覚です。ロッククライミングの途中途中に打ち込む杭のようなイメージです。CG会社で、仕事を標準化して後進育成することが自分のステップアップに繋がった経験、プレゼンでお客様に叱られたことで、本気でプレゼンに向き合うきっかけになったこと、三か月に一度の契約更新の紙もわたしを奮い立たせてくれました。

数あるターニングポイントの前には、いつも「自分は何者なんだろう」とか「ここにいるのにいない」というモヤモヤがあり、そこからターニングポイントがスタートしている感覚があります。自分には軸がなく、なんだかふらふらしていて、自分を形作っているものがぼんやりしているので、それを明確にしていきたいなという切望がきっかけです。仕事をしていると、自分というパーツがはっきり見えてくるような感覚になります。わたしの使命はなんなのか、完璧な答えが出るわけではないのですが、人様のお役に少しは立てているのかもしれないな、と思う時に、自分が何者か、というのが少しずつ見えてくるような気がします。

わたしの父はデザイナーで、父の働く姿を小さい頃から見ていました。自然とわたしもデザイナーになるんだと子供心に思って、絵を描いたりデザインを勉強したりしていました。でも改めて父を見ていると、父は超職人型、絵が大大大好き、デザインが大好き、それが生きがいというのが見ていて分かる。そんな姿を見ていたからこそ、わたしも仕事にしてみた時に、「自分は違うな」と感じました。絵やデザインが好きでしたが、寝食を忘れるほど好きかと聞かれると、そうではなかったんです。モノづくり(仕事)を通じて自分を表現することは、わたしにとってはエネルギーの源とはならず、人からの頼まれごと、そして喜んでいただけることに喜びを感じエネルギーになるんだな、と。だから今の仕事も、「わたしがやりたいことはこれ!」というよりは、みなさんに必要とされたり、頼まれごとをやらせていただきながら、仕事を育てている感じですね。

独立する前に感じていたモヤモヤした不安な気持ちは、今は違うものに変化しました。当時はわたしって何者なんだろう、このままで大丈夫だろうかというネガティブなモヤモヤでしたけど、今は今後どうやって事業を広げていくか、確立していくのか、というワクワクを含んだモヤモヤ。モヤモヤしてはいるんですけど、心の感覚としてはちょっと違うなと思いながらいつもモヤモヤしています(笑)。

仕事は自分が生かせる場所だと思います。まだ見つかっていない新しいものがわたしの中から見つかったら、それも事業にしちゃうと思います。今特に思い浮かぶものはないのですが、今までのように、周りの人からの頼まれごとはすごく刺激になるし、とてもワクワクします。


楽しいと思うことに持ち前の行動力ですぐに挑戦してみる一方、自分は何者なのかという問いを考え続けていた上口さん。独立起業されるまでの切ない心境と葛藤は、誰しもが一度は感じたことがあるものなのではないでしょうか。生き生きと今の事業を話してくださるご様子は、とても輝いて眩しく見えたのでした。
(文章:吉田けい)


上口さんに聞いた
10年後、20年後のセルフイメージ


 

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