楽しいことは面倒くさい、だからこそやっぱり楽しい

お話の折々で、お世話になった方とのエピソード、そして最近夢中になっているキャンプについてお話してくださいました。そこには仕事との意外な共通点が隠れていました。

ターニングポイントとしては、A社に戻って人事をしていた頃からB社にいた頃になるんでしょうか。B社に転職して働いてみて、自分の適性について納得したな、という感覚があります。

少し話を遡りますが、僕には東京の父と呼ぶべき一生涯の恩人がいます。勉強カフェで知り合った方からのご縁でお会いしました。当時の僕は営業で全国出張してばかりの頃で、仕事が辛くて転職したい、みたいなことをよく口にしていました。僕が辞めたがっているのを聞いた知り合いの社長さんから、うちの会社に来ないかと誘われていたりもしました。離れて暮らしている親などには「すぐ転職するなんて」と怒られていましたけど、僕は僕の生きたいように生きる、と尖っていて、辞める直前でした。そうしたら恩人に怒られたんです。生まれて初めて親以外の人に怒られました。大人になると、周りの人で怒ってくれる人ってあんまりいないなと思っていました。ムカついた、嫌い、とかで怒る人はいますけど、本当にその人のことを想って怒る人ってなかなかいないです。怒ったら恨まれるから、みんな怒らない。そんな時に恩人が怒って「お前いつまでそんなうつつを抜かしているんだ、もっと現実的に考えろ。何のために親がいい大学に入れて東京に出してくれたんだ」という話をしてくださいました。
初めて自分のことを想って、本気で思って本気で怒ってくれる人に会ったな、と衝撃を受けました。それでたまたま引っ越しをしようとしていたので、恩人が大家さんをしているアパートに入居して、その方のところでいろいろなことを勉強したいと思いました。

恩人からはよく「夢を持て」と言われていました。自分の目標を掲げて、それを実現するための行動をしようということをずっと教えてもらいました。学校生活はある程度レールが敷かれていて、目標を与えられて生きてきたけど、社会に出るとそれがなくなってしまいます。心が折れるじゃないですけど、このままでいいのかな、と思いながら何となく生きてしまう。なんて言えばいいのかな、枠にはまっていくというか、どんどん現実的になって行く、視野が狭くなる、世界観が狭くなるというか。恩人は外交福祉に携わっていたこともあり、世界各国の様々な立場の人を巻き込んだ活動をされていたので、経済、政治、人生など多岐にわたる話をしてくださいました。

恩人の影響で2016年ごろにキャンプをするようになりました。最初はキャンプのことを舐めてかかっていて、家にあるフライパンをスーツケースに入れて持って行って、恩人に「ホームレスみたいなキャンプだな」と言われてしまいました。最初は誘われて行っているだけだったんですが、意外と楽しいかもなと思い始めて、テントなどの道具を揃え始めました。キャンプの何が楽しいかって、何もないところに、一泊二日するための寝るところ、食事するところ、と環境を整えていくところです。どういうキャンプ場かなとグラウンドを見て、設営の方法や、そこでの過ごし方も考えて設営、終われば撤収する。この一連の流れ、物事の始まりから終わりまでをやっている感覚が、結構いい脳のトレーニング、クリエイティブな発想につながっていくと思っています。プライベートでそういうことをやっていると、仕事も新しいことをやってみよう、工夫してみよう、という気持ちになってきます。そうしたことも含めてキャンプは面白いです。

恩人はWORLD HUB CAMPという、知らない人同士が集まって夢を語り合うキャンプを主催していて、僕もボランティアスタッフとして参加しています。キャンプを通して出会った人とは、都会に戻っても仕事がしやすいんです。都会にいると、やっぱりみんな構えてしまうというか、個人でつながりにくい感覚があります。僕自身は個人でつながろうと思っても、相手はそうは思っていないんです。でもキャンプに来ると、どこの会社のお偉いさんだろうが、キャンプ中はただの人になります。WORLD HUB CAMPの企画運営も、参加者の方にどうやって満足してもらうかを考えるので、すごくいいトレーニングになっています。仕事での説明会や研修の段取りや設計は、雨が降ったりはしないので、キャンプより簡単かもしれません。

僕にとっての仕事は、自分を磨いてくれる場、でしょうか。仕事じゃないと出来ないことだと思います。仕事だからこそ嫌なこともやらないといけないですし。プライベートなら絶対やらないこと、関わらない人、関わりたくない人とかがいて、それらに対してどうやって相対していくか、自分が求めることをクリアしていくか。そうして仕事をしていく中で自分が磨かれていく、そんな感覚がすごくあります。

仕事をすること自体は楽しくもあり苦しくもあります。やっぱり会社に行きたくない時もありますよ、朝起きたくないなーとか。そういうのも乗り越えて、自分の精神力が上がっていくような気がします。楽しい事だけ出来たらベストですけど、楽しい事にも面倒くささが絶対あると思います。キャンプもそうで、キャンプを楽しむために準備をしなきゃいけないし、楽しんだ後は片づけないといけないですよね。楽しいことをするための生みの苦しみじゃないですけど、楽しさと苦しさは切っても切り離せないと思います。
こういう考え方はキャンプが教えてくれました。準備はワクワクするけど面倒くさいですよね。やっぱり完成したところに行って、楽しむだけ楽しみたいじゃないですか。でもそうして楽をしていると、本当のキャンプの楽しさって味わえない気がして。それだったらホテルに行くのと変わらないわけです。仕事もキャンプも、億劫だけど作る工程も含めて楽しむという意味で、苦しさもスパイスなんだと思います。

「人と人としてつながっていく」という言葉を何度も仰っていた松本さん。人と向き合い、キャリアを提案する人材業界でのお仕事は、まさに天職なのではないでしょうか。最初にお話を伺った時は意外に思えたキャンプ活動も、「人と人としてつながれる場」と位置づけていること、キャンプ運営の経験を仕事の糧としていく姿勢に、質実剛健な気質が表れているなと感じた筆者なのでした。
(文章:吉田けい)


松本さんに聞いた
10年後、20年後のセルフイメージ

WORLD HUB CAMP  https://www.worldhubcamp.com/


 

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