浮かび上がる違和感が浮き彫りにしたこと

意を決して転職した松本さん。コロナ禍の厳しい状況の中、仕事を通してある思いがどんどん大きくなって行きました。

B社では、外資系コンサルティングファームに人材を紹介するのが自分の主な業務でした。いわゆる優秀層、学歴が高くて年収も高くて、キャリアの中でもハイレイヤーと言われるようなビジネスエリートの方たちの転職の支援をしていました。ただ僕がB社に転職したのが2020年3月で、コロナ禍の影響が大きくなってきた頃だったので、経理や経営企画など非IT領域のビジネスコンサルティングと呼ばれる分野は各社採用を鈍化させるような局面でした。

前職の頃から感じていましたが、僕は個人に対して面談をするのが好きだな、と実感しました。そしてエージェントという仕事はメチャクチャやりがいがある仕事だな、とも思いました。今の時代、求人情報はインターネット上に掲載されているので誰でも検索・閲覧できますが、自分で検索すると、自分が想定した範囲でしか調べることが出来ないですよね。でもそこに第三者が入ることによって、その人が思いもよらないような選択肢も掲示することができるんです。それが転職エージェントが転職活動に介在する意味だなと思います。だからB社でも楽しく面談をやっていました。ただ一方で、この会社では自分ならではのバリューが出せないなと気づいたんです。

というのも、僕はキャリアが高くなればなるほど、選択肢が狭まる、つまりエージェントして提案できる求人の幅は狭くなると考えているからです。今の僕が転職するとしたら人材系営業や人事の経験があることを生かしていきますけど、25歳だったら、営業で他の業種に行くこともできたんです。今でも行けなくはないんでしょうけど、いざ転職となって、年収などの条件を確保しようとすると、経験のある人材業界に行くのが手堅いんです。選択できないわけではないけど、現実的に選べる選択肢は限りなく狭くなっていく一方です。年齢もありますが、ある程度キャリアを積み、専門性を高めていくと、その専門性の範囲で転職せざるを得ないというか……。
特にB社で相対していたハイレイヤーな方たちの多くは、どこのエージェントに行っても、結局紹介される求人は一緒なんです。だから企業にどれくらいのコネクションを持っているかどうかが重要になってきます。僕はそこにはあまりモチベーションを感じられないなと思いました。それよりも、何を選んだらいいか分からない人とか、他にも選択肢があるのにそこに目を向けられていない人とか、そういう人のキャリア観を言語化して提案していくようなことをやりたかったんです。未経験の若者、第二新卒とか、そちらの層の方がやりがいを感じるな、と。なので、B社での業務はミスマッチなんだな、と感じ始めていました。僕の捉え方が変われば、ハイレイヤーの方の転職にもやりがいを見出せたのかもしれないですけど、どうしても切り替えができませんでした。

煮え切らない心地で仕事をしていた頃、大学の先輩から連絡がありました。所属していたアメフト部の中でも一番可愛がってくださり、一緒に夢を語り合ったり、兄のように慕っていた方でした。卒業後も連絡を取り合っていたのですが、その方の知人がC社で人事をされていて、良い人材を探しており、先輩は僕のことを思い出したという流れでした。C社は人材会社ではありますが、介護施設と保育施設を運営するグループ会社があります。介護と保育は必要不可欠な仕事、エッセンシャルワークと言われている、コロナ禍でも止まっていない領域です。物流や建設と同様に、どんな状況であっても社会になくてはならないところに人を送り出す事業は、魅力的に思えました。
また、エッセンシャルワークについては、資格や経験が必要な領域はもちろんありますが、業界職種未経験者であっても受け入れてくれる領域も多分にあるため、自分が感じたい介在価値を実現するのに非常に適した環境だなと感じました。ただ転職するとなると、入社して1年たたずに辞めることになるので、ご紹介くださった佐藤さんに申し訳ない思いもありました。でも入社して初めて気づくことができた違和感と、C社でできそうなことを比べて、C社は自分にとってすごくいいなと。信頼している兄貴分からいただいたご縁を大切にしようと、もう一度の転職を決意しました。この時の転職を決意する時に「どうせ仕事をするなら、自分が起因となって役立てる人の数が年々増えていく人生がいい」という自分の軸も得ることが出来ました。

現在はC社で課長職となり、チームメンバーが4人います。業務内容としてはチームメンバーとともにエッセンシャルワーク系の人材派遣や人材紹介を行っております。自分がプレイヤーとして業績を立てるだけではなく、メンバーの成長を支援することによってチームの業績を最大化することがミッションです。

チームメンバーは新卒1~3年目の若い人たちばかりです。彼らのマネージャーとなって気が付いたのは、やはり僕は人の成長を支援させていただくことがすごく好きだということです。人の長所を見つけるのが得意だなと思います。人をとにかく褒めろということを、恩人から教えて頂きました。人の欠点って見つけやすいけど、長所は見つけにくいんです。何となくいいね、好きだな、はあっても、具体的にどんなところが良いかはしっかり考えないと出てこない。
長所を見つけようとすると、その人のことがよく分かります。その人の全体が見えるという感じでしょうか。思えば面接やお客様と対峙する時にも、この人のいいところはどこだろうな、と考えていました。そうやっていた僕が管理職になってみて、メンバーのここを伸ばせばいいなとか、これは短所だからこれをやめればいいか、などが分かるようになりました。そうしてみんなが成長していく姿を見たり、他の人から「目が変わった、生き生きしているね」と言われると、めちゃくちゃ嬉しいんです。自分が表彰された時より正直嬉しい。僕が目立つよりも、僕が関わった人が「松本さんからいい影響を受けました」とか、「松本さんに出会って本当に良かった」とか言われたり、周りの人から「あの子、仕事に対するスタンス変わったね、いいね」と言われるのがすごくすごく嬉しい。人のキャリアの成長、キャリアの支援、そうしたことに関われることがめちゃくちゃ好きです。

今の会社でも、キャリア面談を作ったり、研修講師を引き受けたりしています。 最近よく親に昔言われたことを思い出します。何故か高校生の僕に「教師になりなさい」とずっと言っていたんです。理由は今でもわかりませんが、僕が人に何かを伝えたり教えたりするのが好きなことを見抜いていたのかな、と思います。大学は外語大のスペイン語専攻でしたが、ゼミは比較教育学に入りました。その人のゼミが面白そうだから入っただけなんですけど、今振り返ると、点と点がつながってきたような感覚があります。

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