矛盾の濁流の中で透明に生きる
~仕事というツールで追求する自分の真ん中~

 

平野知実さん

会社員、キャリアコンサルタント

玉川大学芸術学部パフォーミングアーツ学科卒業。
人材系コンサルティング会社、化粧品メーカーの人事を経て、現職エー・ピーカンパニーに入社し、2016年に人材開発本部副部長に就任。エー・ピーカンパニーが持つ居酒屋チェーン店のアルバイト学生を対象に就活支援の取り組みを行う「ツカラボ」の運営の中心的役割を担い、自らセミナーで講師も担当する。
プライベートでは1歳の息子さんを持つお母さん。

 

 


早熟で多感な少女時代につかんだ「人を信じる」幸福感

「平野さんと言えば、昨今メディアでも多く取り上げられている「ツカラボ」の中心を担う方で、人材開発のプロであり、今も時代に先駆けた施策を展開する企業人事界の若きリーダーともいえる人物。「人事のプロ」を目指したきっかけをお聞きしました。

大学は芸術学部パフォーミングアーツ学科というところを卒業しています。
実は、小学校4年生、5年生の時に劇団で子役をやっていたのですが、演劇をやっているときだけは何も考えずに「みんな大好き」と思えたんですよね。
というのは、その頃の私自身は思春期の只中で、「人はなぜ生きてなぜ死ぬのか」と日記に書き連ねるような子でした。一方で、クラスではリーダーシップを発揮したり、面白いことを言ってみんなを笑わせたりという自分もいて、自分でもそのギャップをどう取り扱っていいかわからずにすごく疲れていました。

舞台に立って客席を見ると、ひとりひとりのお客さんの顔がよく見えるんです。それぞれは全く他人なのに、一体感を手に取るように感じる。満員電車で会ったら舌打ちするような相手なのかもしれないのに、一緒に泣いたり笑ったりしている。その矛盾のような偶然性の中にある「人とつながる」という感覚をその時、知ったのです。「人とつながれることを信じる」感覚と言い換えてもいいかもしれません。演劇には、平和的に人が在るということや、そう在れる場を作りだす仕掛けがあるのかもしれないと思いました。
そういう思いをずっと持ち続けて、演劇も含めた表現活動とくくられるもの、表現を通じた自己一致の方法、人と自分を溶け合わせる方法や仕組み、それらを世の中に展開するすべを学ぶために、芸術学部に進学しました。

でも、大学に入ったら割と早い段階で自分は表現者を一生やっていきたいわけじゃないということに気が付きました。
役者というよりは、制作。資金調達のための協賛の得方や、多くの観客を獲得するための広報・広告展開に、自分の情熱を見出していきました。つまり私は、場づくりや運営に喜びや関心をより感じるのだということに気づいたのです。

そういう中で、気軽に高校生が学校帰りに劇場に寄ったり、休日の公園帰りに家族で「今からオーケストラ行こうか」ってチケットを買えるような、パフォーミングアーツがもっと身近にある社会にならないかな、と思ったんです。そして、観るだけでなく、絵や歌やダンスや詩や陶芸や、何かを表現することがもっと日常的で身近になったらいいなと思いました。
私が舞台に立っていた時に救われたように、言葉にできないことを表現することを通じて自分を確かめたり、人と繋がる機会が増える世の中になったら・・・そうしたら、3万人もの人が自殺しなくてもいいかもしれない。信じることや自分を愛することの手触りが、身近にある世の中にならないだろうか、と。

そういう世界を作りたくて文化政策を研究したのですが、悔しかったのはなぜ演劇界は担い手がたいがい貧乏なのか、ということ。世の中を動かすダイナミズムというのは圧倒的な力として「経済」にあって、結局お金とセットなのだと気が付いたのです。
本当によいアートや演劇も、「大事なのは心だよ!」ということも、多くの人に届けるためには「お金」が必要だということに気づいて、私は経済の中で、芸術の担い手と経済をつなげる方法を考えよう、と。そう思って企業に就職することにしたのです。

 

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