フリーランスからチームの一員へ
フリーランスに転向した山浦さん、自分の市場価値が上がるのを実感したと仰います。仕事の数を重ねていくうちに、取引先からある打診がありました。
フリーランスに転向したのが2018年3月で、そこから2020年の1月に今の会社で社員になるまでがフリーランス期間ですね。基本的にはブログ更新を業務委託してくださった、中国向けマーケティング施策を提供している企業とのお取引と、日中ビジネスのコンサルなどを手掛ける組織でのセミナーやイベントの集客などが主な依頼でした。中国の有名な企業の方を招聘してセミナー開催するので、日本人参加者の集客を任せていただいていました。他にも現地イベントの展示会のアテンドなども引き受けたことがあります。この2社の2本立てが主な仕事でしたが、ある時を境に記事を寄稿していたウェブ媒体の編集部にて、記事執筆だけでなく編集の仕事にも携わるようになりました。
やはり年に数週間でも現地に滞在のチャンスがあると、自分の市場価値がめちゃめちゃ上がるなと実感します。ただ現地にいるだけではなく、自分でも中国向けのアプリを使っているし、現地の友人もいる。いろいろな階層の人と知り合って、その人それぞれの仕事や生活や想いがある。そうしたことに直接触れることで、中国のこの部分はこういう状態、というのを自分の言葉で表現できるのは私の強みだな、と思います。たとえば中国で起きているある出来事に対して、それを知りたいと考えている人に適切な補助線を弾いてあげるような感覚が大好きです。「生きててよかった!」と思う瞬間ですね。
現地を経験している私ならではの注釈の例として、以前、中国のシェアサイクルはすごい、と注目が集まっていましたよね。ただ「中国のシェアサイクルがすごい」という切り口だけですと、「ウオー自転車いっぱいある! いつでもどこでも借りられる! スマホアプリで個人情報とも連携している! すごい!」というレポートは、当時少なくなかったと思います。実際のところシェアサイクルの台頭・流行は、中国は出発地から目的地まで東京だったら考えられないくらいの距離があるのに、自転車以外にいい乗り物がない、という環境が、実は東京よりずっと多いということなんだと私は思うんですよね。私は自分は地方では生活したことがないので、あくまでも東京との比較になってしまうのですが。日本みたいにスムーズに漕げる自転車もそんなになかったですし、自分で所持してメンテナンスしてっていう発想にもならないんだと思います。こういう前提や周辺知識を共有させていただいて、例えばシェアサイクルのことを知りたかった某分野の専門家に、より有意義な発想・考察にたどりついていただく、ということができれば、すごく本望です。
イベントのアテンドをしている時などは、中国式のやり方で大変だったこともありました。中国式は方針や予定がコロコロ変わるんですよね、中国式に何年も合わせて仕事をしてきたつもりでも、未だにびっくりします。そういう衝撃を、アテンドしている日本人の方に如何に不愉快さを与えないで過ごしていただくか、ということに気を配るんですね。メチャメチャいきなりルールが変わるんですよ。同じイベントなのに、今日はこの緑のシールを持っている人しか入れません、と、会場に行ったら変わっていたりする。「シール、何の話!?」ってなりますよね。私もびっくりしているんですけど、「大丈夫、皆さんの分のシールは必ず確保するので、ちょっと、30分ほどお待ちください」なんていって対処していきます。シールは一例で、開場時間が変わったり、ゲスト登壇者が変わったり、本当にいろいろありました。
中国人も別にいい加減に仕事をしているわけではないんですね。その時に自分が「いい!」と思ったことを実践しているんです。「シールがあればうまくいくかも!」と思いついたとき、日本式なら、上長や同じチームの人に一言声をかけると思うんですけど。私の知る多くの中国人の場合は、そういうやり方はしないで、当日に「シール持っている人だけ入場できます」とアナウンスしちゃう。シールってどこにあるの? それは自分のところにあるから取りに来て、と。みんなシールではないスケジュールを聞かされているから戸惑いますよね。そうこうしているうちに別ルートで徐々にシールが配られ始めて、運営している人とコネクションがある人を経由してシールが手元に届く、といった経験もありました。日本人のように根回しをする人は、……いなさそう、いないと思います。私の関わった人たちにはいませんでした。Twitterなどで仲良くさせていただいている現地にいる方たちも、こうした事象で困っているのをよく見かけますから。足並みを揃えることの意義を過大に評価しない、とでも言えばいいんでしょうか。困ったらシールをあげれば解決するし、根回ししておいてもまた状況が変わってしまうかもしれないから。どこで何が変わるか分からないから、備えていてもしょうがないよ、みたいな感覚ですね。日本人の感覚では本当にビックリですけど、そんな中国が面白くて好きです。
現在勤務している株式会社movは、2018年にフリーランスになった頃から業務委託案件をいただくようになり、2019年から編集部に入り、翌年2020年に正社員になりました。
現在のメインの業務は、movのオウンドメディアの記事編集です。会社の事業のスタートはデジタルマーケティングのコンサルティングなのですが、Webサービスの開発部署もありSaaS(Software as a Service)をお客様に提供しています。編集部はマーケティング部の一部門という位置づけです。勤務先は主にインバウンド領域、店舗集客領域でサービスを提供しています。
主な仕事の内容は、記事の企画をしてライターさんに依頼、納品いただいた原稿を掲載できる状態にしてサイト更新、記事公開、というものです。多い時には月間100本こなしています。きついです! 自分の手だけでは回し切れないので、いろいろな手を借りています。
フリーランスのライターの頃は、結局のところ時間とお金を引き換えにしているなという感覚がすごくあり、もっとお金を得るにはもっと時間を費やさないといけませんでした。そうではない、時間労働ではなく価値が生み出せる仕事があればいいのになと思っていました。社員であれば、サービスを売るという大元の目的があって、そのためのオウンドメディア運営、記事更新だと捉えることが出来ます。大元の目的がブレイクダウンされ私の目標となるの過程を見直してみれば、例えば更新本数を変えたりと柔軟な対応もできるのですが、フリーランスだとそういう置き換えができないんですよね。私の価値はあくまでも「私が書くこと」にしかない。より多くの報酬を得ようと思ったら、記事をたくさん書くことを生み出す、という働き方になってしまっていました。業界によって生涯年収が決まるともいうので、もっと報酬を得るためにライター以外の仕事をしたいな、とずっと思っていましたね。
ライターであるならば「誰にも書けないものを書く」のが自分の市場価値の上げ方になると思うんですが、現状以上を見つけ出せずに悩んでいた。そんな時に、編集職のお話をいただいたわけです。
書くこと以外の仕事にも携われるのはありがたいなと思ったのを覚えています。
技能実習生仲介の経験や製造業の夫の仕事を見ていると、モノを作れる、モノという価値を市場に提供できるのは素晴らしいことだなと常々思います。私は今の会社ではマーケティングに所属していますが、会社としてはコンサルティングをやっていたり、Webツールそのものも作って提供しているのは、私にとって誇れることで、そこに勤務する自分への納得感、満足感が大きいです。自分単体では市場に価値を提供するのが難しいと感じることが多い中で、コンサルティングやウェブサービスを提供する・作る組織のメンバーに私はなっている! という自負というのでしょうかね。
ずっと中国と関わる仕事、を軸にキャリアを重ねてきましたが、中国のことは今でも変わらず好きですね。おおらかなところと、とりあえずやってみよう精神というんでしょうか、そんなところが好きです。中国社会は中国社会でプレッシャーがあるのは理解していますけど。たとえば仕事で嫌なことがあった時、私の中国人の友達だったら「仕事は仕事、生活は生活」と割り切っていて、パッと気持ちを切り替えている。うまくいかなくてもしょうがない、と、重く捉えすぎない。そんな風に思うと私も楽になれるような気がします。中国にも本音と建前のようなものはありますよ。でも現地では、私が外国人だからなのか、自分が中国社会にいる間は建前を取っ払って振舞える気がするんです。そんな楽に生きられる精神を教えてくれたことが、私が中国を好きでいることの根っこになっていると感じています。