みんなが楽しく生きていてくれたら、こんなに幸せなことはない

ターニングポイントについてお伺いすると3つ挙げられた山下さん。一つ一つを紐解くと、山下さんが大切にしているものが浮き彫りになりました。

ターニングポイントは、まず新卒の市役所のインフォメーションで真っ赤な顔のおじさんと出会ったことですね。これは外せません。小娘だった私には衝撃でしたし、後々になってクレームコンサルタントとして事業を始めるきっかけとなった人物でもあります。

もう一つは、母が認知症となり、倒れて入院したことでしょうか。仕事がありますのですぐに在宅介護を開始できるわけでなく、しばらく病院に入院していたのですが、認知症の患者は点滴を抜いたり徘徊しないように、手足をベッドに縛られてしまうんですね。他に介護の手もないので、私が仕事を辞めて札幌に帰らない限り、その状況は変わりません。それでも良しとされる方もいるのかもしれないですけど、私はそんな状態の母をそのままにはしておけませんでした。収益がなくなってしまうのは怖かったですが、とても見ていられなかった。仕事を縮小して札幌に帰って介護をしながら、どうやったら働かなくてもお金が入るようになるかな、と事業の構想や不労所得について考えて続けていました。

介護の在り方についてたくさん考えたのもこの時期です。介護を始めてしばらくした頃、細やかなケアの行き届く小規模多機能型ホームを創ろうとしている方と知り合いました。その方のホームの構想を聞いて、ここなら安心して母を預けられるなと感じ、創立後にすぐに利用を始めました。おかげでまた仕事をできるようになり、どうしても東京に行かなければならない時などはとても助かりました。介護の全てを在宅で、自分で、と抱え込んでいたら、仕事など到底できないでしょうし、限界が来ていたと思います。

介護のことで私に相談に来る方によく言っているのは、自分がすべてやろうとすると、自分自身も死んでしまうかもしれない、ということです。かといって、兄弟や親戚で分担しようとしても、それぞれ事情がありますからいずれ歪みが生じてしまう。介護保険を使うなり、施設の利用を考えるなり、出来る限り他人の手を借りて、お金で解決するのがいいんだよ、と伝えています。育児と子育ては似ていると言いますが、子育ては子供が何歳になるまで、とゴールがある程度見えている状態です。でも介護はいつまで続くか分からない。明日にはあっさり亡くなってしまうかもしれないし、十年も二十年もこの状況が続くかもしれない。この先の見えなさが介護をより辛くしています。そうしたものを抱え込まずに、他人や行政の力をしっかりと借りて、頑張らないようにしていくのが介護の在り方ではないかなと思います。

もう一つ、妹と千葉に移住し、彼女がAlonAlonに就職したことも大きなターニングポイントです。本当に安心しました、これで死ねると思いました。自分自身の仕事や生活は、自分が頑張ればなんとかなりますから。でも妹はどうなるんだろうというのをずっと心配していました。今、妹の心配がなくなって、安心して死ねると思えることがすごく素敵なことのように感じています。みんながそんな風に楽しく生きていてくれたら、これ以上の幸せはないと思いますね。

私は自分で事業をしていますが、どこかに雇用されて人に使われることは大事だと思います。アルバイトのような時給の仕事ではなく、人様に仕事を教わりながら給与をもらう、ということからしか得られない経験があると思います。今の世の中、独立起業がやたら称賛される風潮ではありますが、職場での人間関係やしがらみが嫌だから、という動機からの独立は上手くいかないのではないかと思います。書籍にも書きましたが、どんな仕事をするにせよ、人生の中で敵を作ってはいけないと思います。人と接する時は、心身ともに美しい状態で会うのが良いんです。福島正伸先生は何かの時に「誰かと初めて会う時は、会う前からもうその人のことを好きになると決めている」と仰っていて、素晴らしいことだと思いました。この人好きだ、と思いながら初めて会えば、初対面からの関係性がより素晴らしいものになるに決まっていますから。 思えば、公務員時代は親のため、妹のために生きていたと思います。自分で自分の人生を生き始めたのは、たぶん公務員を退職した後からなのでしょう。だから私は人生としてはそんなに長く生きていないような感覚があります。私にとって家族がすべてで、行動の中心や判断の基準は常に家族でした。妹のこともあり、基準を家族にせざるを得ないような状況であったとも思います。結婚して子供が生まれてからは、夫や娘も含め、家族は私と一緒に暮らしていくのは大変だったと思います。札幌から東京まで毎週のようにいかせてくれたことなどその他もろもろ、本当にありがたいです。長年連れ添った夫なので、愛は薄れても恩は残りますね。夫婦はそうやって恩を積み重ねていくから長くやって行けるのではないかなと思います。

Choiceでは主にキャリアについてお話を伺いますが、山下さんはご家族への想いがとても大きく深く、時にキャリアを大きく方向転換させるほどなのだということが伝わってきました。山下さんのように家族のための決断をする勇気こそが、ニューノーマルが必要と言われる今の時代にマッチしていくのかもしれないなと思った筆者なのでした。
(文章:吉田けい)


山下さんに聞いた
10年後、20年後のセルフイメージ

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