働くこと、それはライフワーク
~選ぶ時はいつも、「やりたい事」をやるために~

関屋 裕希(せきや ゆき)さん

東京都在住。心理学博士、臨床心理士、公認心理師。東京大学大学院医学系研究科・精神保健学分野・客員研究員。専門は産業精神保健(職場のメンタルヘルス)。業種や企業規模を問わず、ストレスチェック制度や復職支援制度などのメンタルヘルス対策・制度の設計、職場環境改善・組織活性化ワークショップ、経営層・管理職・従業員それぞれの層に向けたメンタルヘルスに関する講演や執筆活動を行う。これまでの講演・研修・コンサルティングの実績は10,000名以上。臨床心理士として、精神科クリニック、小中高の教育領域での個人カウンセリング経験があり、現在も企業内健康管理室にて個人カウンセリングを担当する。近年は、心理学の知見を活かして、理念浸透や組織変革時のインナーコミュニケーションのデザイン・設計にも携わる。

代表的著作は「感情の問題地図(2018.7/技術評論社)」。


自分がやりたいことを探し当てる

心理学の専門家である関屋さん。学生時代から職場のメンタルヘルスにご興味があったとのことで、その頃からのお話を伺いました。

心理学を志したきっかけに、特にこれと言ったものはないんです。
小学生の卒業文集には既に「精神科医になりたい」と書いていました。この頃は一日一冊くらいのペースでたくさん本を読んでいたんですけど、その影響からか、心の世界に興味があったんです。どれか特定の本に衝撃を受けたわけではなく、いろいろな本を読んでいくうちにだんだんと……、という感じです。
それから1995年の阪神淡路大震災で、被災者の心のケアが大切だ、とたくさん報道され、興味を持ってそれらを見ていたのが印象に残っています。それと同じ時期にスクールカウンセラー事業が法律化して、小中学校にスクールカウンセラーを派遣することが義務付けられることになりました。そのため、臨床心理士について、仕事内容や資格の取り方などが新聞などでよく取り上げられていて、それらも興味深く読んだのを覚えています。
そのあたりから、心理学って面白そうだなと思い始めて、大学受験でも心理学がある大学・学部を選んで受験しました。

学部で本格的に心理学を勉強してみて、とても面白かった!もっと勉強したいなと大学院に進学を決めました。
学部時代のゼミの頃から、心理学をもっと多くの人に役立てたいという気持ちがありました。病気の人に対する心理学も大切ですが、どうしても対象が限られてしまうので。もっと健康的な人の役に立つ心理学をやりたいな、という想いをずっと抱えていたように思います。でも、学部の頃はまだどこか受動的で、目の前にあることを少しずつ試してみながら、自分のやりたいことを探っていくような感覚でした。
大学院の頃から、自分から進んで選ぶことが出来るようになってきたのではないかと思っています。選ぶための準備が出来たというか、自分の中で整ったというか……。
今までは何が必要なのか分からなかったけれど、直感で分かるようになって、自分から進んで手を上げるようになりました。自分で選ぶ、選ぶための選択肢があることって、すごく大切だと思うんです。

余談ですが、高校で弁論大会に出場した時、スピーチのタイトルが「自己選択の時代」でした。環境や機会を自分で選べることは幸せで、大事なことだ、という内容でしたが、大学院時代になって、ようやく自分でもそれが備わったという事なんでしょうね。

学部で心理学を専攻して、もっと勉強したい、臨床心理士になりたいと思い、進学を決意しました。ある意味この頃から私のキャリアが始まっていたと言ってもいいのかもしれません。
入学した筑波大学大学院は特徴的で、最初から五年一貫で在籍し、博士まで取得することが前提になっていました。これは研究者や大学教員となるような人材を育てるためのカリキュラムという意図がありました。なので、院生が学部生の授業の補講や、研究法という、研究のやり方を学部生に教える授業を受け持ったりするんです。そうしたカリキュラムもこなしながら、私が心理学で興味を持っていた分野は、働く人に向けたメンタルヘルスでした。

心理学は大別して医療・教育・司法・地域保健・福祉・産業といった分野があるのですが、やはり医療と教育が大きく、私がやりたい産業の分野は、当時はニッチな領域でした。ニッチなことをやりたいと分かっていたので、院生一年の頃から、「働く人のメンタルヘルスに関わりたい、産業領域のことで面白い事ありませんか、もしあれば声をかけてほしい」と周囲に言い続けていました。
特に、自分の所属とは違う研究室の先生が面白い事をやっている、という噂を聞いていたので、その先生によく言っていました。宣伝していた甲斐あって、その先生が関わる大規模な研究プロジェクトに参加してみないかと声をかけて頂きました。

参加することになったプロジェクトは、働く人に向けて、うつ病などを予防するための電話カウンセリングの効果検討をする、といったものでした。
効果検討するためには実際に電話相談を受ける必要があるので、その電話カウンセラー役をやってみないか、とのお誘いでした。このプロジェクトに参画して本当に良かったと思っています。
理由は二つあって、一つは「認知行動療法」を扱えるようになったことです。認知行動療法は、エビデンスレベル、研究成果の信頼も高く、この頃からしばらくして、心理学の分野で流行します。それをいち早く身に付けられたことがとても良かったです。もう一つは、プロジェクトに参画していた先生方との出会い。三人いらっしゃるのですが、そのうちのお一人は最初の職場の上司となったので、プロジェクト参画が就職活動にもつながりました。

この電話カウンセリングのプロジェクトは、論文が完成するまで五年かかりました。とても大規模でお金がかかるプロジェクトだったので、一介の院生の身で関わらせてもらえたのもとてもいい経験になりました。
論文が完成して効果検討は終わったのですが、出資者の企業がパッケージ商品化して事業を継続することになったので、私もカウンセラー養成、そして様々なケースにスーパーバイザーとして関わるなど、細く長く、ずっと関係が続いていました。2008年2月にプロジェクトが発足して、2020年3月に終了したので、まるまる12年関わっていたことになります。干支一回りと思うと、そんなにやってたんだ! と自分でも驚いてしまいました。

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