その紙が来るたびに切なくて

希望の仕事、しかし激務であったことから退職を決意した上口さん。その先に選んだ仕事の雇用形態が、ご自身の在り方を見つめるきっかけとなりました。

景気も良くない時期だったので、そこからは就活の日々でした。学生時代のアルバイトの伝手で仕事をいただいたり、ハローワークに行ったりもしましたが、大変でした。職種としてはPCインストラクターなどで探していました。IT企業のインストラクター、もしくはPMでしょうか。なかなか見つからなくて、やっと見つかったのが商社での研修インストラクター職でした。この会社は情報システム、教育システム、オフィス構築を手がける専門商社で、研修インストラクターでの内定、3か月ごとの派遣契約でした。

研修インストラクターは、本来なら契約後にお客様にシステムの使い方のデモンストレーションをしたりするのが仕事ですが、新規事業の部に配属されたので、契約受注のためのプレゼンテーションも営業さんと一緒に実施しました。最初は失敗がとても多かったですね。お客様のニーズを汲み取るということがよく分からなくて、ただただシステムの説明をしてしまっていました。またお客様の属性や立場の違いも分かっていませんでした。いつものようにプレゼンをしていたら、「うちのことを全然分かってない!」とお客様を怒らせてしまい、もう帰っていい、と言われたことがありました。シッシッっと手を振られ、プレゼンは途中のまま、追い払われてしまったんですね。この商談はそれきりになってしまい、営業さんにも、お客様にも大変申し訳なかったです。営業さんはフォローしてくださったんですけど、そのフォローを上回る大失態でした。多々ある失敗の中でも、今でも思い出すと胃がきゅうと痛む大失敗です。そんな経験があって、営業の本やプレゼンの本を読んで勉強するようになりましたし、お客様のニーズや立場に目を向けてみるようになるなど、わたし自身のスタンスが変わっていきました。

やっと見つかった研修インストラクターの仕事でしたが、派遣契約という立場から、いつまでこの仕事を続けられるかな、という不安がどこかにありました。わたしの友人や同期は新卒で入社した会社でずっとそのまま勤めている友人が多かったんです。だんだんと役職がつくような友人も出てきます。でもわたしはその時すでに4社目で、派遣社員。自分には軸がなく、誇れるスキルもなく、ふらふらしているようでとても不安でした。

派遣契約は3か月ごとに更新で、その度に契約更新の紙が送られてきます。その紙が届く度に「ああ、今回も届いた、契約延長だ」と、自分が派遣だという事をまざまざと思い知らされるんです。30歳を超え、わたしこのままで大丈夫かな、いつまでもこの紙は届くのかな、と心配になりました。40歳、50歳になってもこの紙を、今回も届いた、今回も届いた、ってなるのかなって。それにこの紙が届く、契約更新されるならいいけれど、契約終了で紙が届かなくなることもあるのかなって。一方、正社員でずっと勤めている友人と自分を比較してしまうと、言葉にできない不安が大きくなりました。わたしが勤めたどの会社も、人間関係も、仕事内容も恵まれていて、そこに対しては感謝しかありません。どこも楽しい思い出ばかりです。でもどこか切ない思いを常に抱えていて、自分には何が出来るんだろう、大して何もできない空っぽ人間のように感じていました。楽しそうだからと、思い付きで行動してきたことを後悔しているわけではないのですが、一つの会社にずっと勤めていることってすごいことだな、と痛感しました。

そんな不安から解放されたくて、違う自分になりたくて、友人から教えてもらったチームNO.1というコミュニティに参加しました。

チームNO.1には、セミナースターという研修があり、わたしはそこでセミナー業にチャレンジしようと参加したのですが、当時は今後独立するのか、副業をしてみるのか、はっきりとせず曖昧なままでした。具体的に独立するぞ! 起業するぞ! というよりは、現状を変えなきゃ、そのために何かしなきゃ、という気持ちでした。セミナースターに入ったわたしは、とりあえず自分ができそうなこと、という理由からプレゼンセミナーを始めました。「成功する秘訣1、セミナー会場の予約を取ること。秘訣2、次の会場を予約する。秘訣3、その次の会場を予約する」と教えられた通り、3回目までの会場を予約するところから始めました。最初は受講者様が集まらずに、参加者ゼロの時も多かったですし、プレゼンに適したお部屋を予約できず、公民館のお料理教室用のキッチンで開催する日もありました。チームNO.1の先輩が無償でセミナールームを使わせてくれた時は本当にありがたかったです。

セミナーの開催頻度は月1~2回でした。派遣社員としての仕事もあったので副業状態ですね。そこがまた甘えだったと思うのですが、セミナー集客はわたしにとって死活問題ではありませんでした。キャンセル料が発生する会場だと確かに出費はありましたが、集客がなくても生活費はあるわけです。そこは腹を括れていないなあというのがどこかありました。

現状を打破したい、自分の殻を破りたい。そういう気持ちを持っている人って多いんじゃないかなと思います。会社勤めしている人もそうだと思います。不満なわけじゃない、辞めたいというわけじゃない。ただ何とも言えない、いわれもない不安というか、このままでいいのだろうかという、何とも言えないモヤモヤした感覚です。特にわたしの場合、派遣社員という立場であることが、よりその感覚を強くしました。職場での人間関係は良好でしたが、正社員じゃないという事が、勝手にどこか一線を引くような気持ちになってしまったり。わたしって何者なんだろう、と考えていくにつれ、「わたしはここにいるのにいない」という感覚に陥ることもありました。

でもそんな状態のわたしを、チームNO.1の皆さんが背中を押してくれて、その力の強さたるや。ある時、「畳の上で泳ぐ練習はもう充分したでしょ。畳から海に出なよ!」と経営者の方が仰いました。もし上手くいかなくて溺れそうになったら、掴まらせてくれる人は周りにたくさんいるでしょ、と。頼もしいですよね。図々しいけれど、一緒に勉強してきた仲間だからこそ、本当に助けてくれそうだな、と思いました。1年間セミナーを毎月開催し続けても参加者は0か1~2人くらいが続いていて、このままではなにも変わらないな、と考え、退職を決意しました。

最後の会社は5年お世話になって辞めましたが、独立後、今でもお仕事をいただき、関係を続けさせていただいています。辞める当時も、いつでも戻ってきていいよと言っていただけて、素晴らしい上司、同僚、職場に恵まれたなと改めて思いました。

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