自分たちらしいものが、話題のサービスに

独立のきっかけはパートナーとの出会いだったと話してくださった村田さん。事業内容も思いがけないものが形となって行きます。

ギブリーを退社して独立したのですが、独立を長年考えていたわけではありません。ただ、会社員をずっと続けているイメージは持っていませんでした。かといってどのような働き方が自分に向いているのか、しっくりくるものが分かりませんでした。そんな折、今の夫と出会いがあり、モヤモヤしていた私のキャリアの相談に乗ってくれました。夫は「貴方には会社員は向いてない。会社を辞めて、何かチャレンジしてもいいのでは」と、独立の背中を押してくれました。

夫と結婚することになり、結婚式を挙げる時、「自分たちらしいものを何か取り入れようか」と夫と話しました。何がいいかなといろいろ考えて、Web招待状のシステムを作ってみたんです。夫はエンジニアなので自分でコーディングして、知人のデザイナーさんがデザインをしてくださいました。仕上がりを見て、なかなか面白いものが出来た! と思ったのを覚えています。よく出来たものだったので、結婚式が終わった後、この仕組みを外向けに展開できるんじゃないかなと考え、SNSで発信していました。そうすると、しばらく後にブライダル企業から利用依頼のお話をいただき、株式会社TAIANを立ち上げました。

夫と一緒に作ったWeb招待状のシステムは、最初はto C、個人のお客様向けへの販売をイメージしていたのですが、ブライダル企業からの提携のお話をいただいてto Bで展開することになりました。お取引先も増え、多いところではその企業のお客様の8割程度にご利用いただける時もあり、ありがたいですね。

私は平成2年生まれなのですが、私の同世代か少し下の世代あたりから、年賀状のやり取りは小さい頃にやったことがあるくらい、人によっては一度もないという人が多くなってくるんです。だからハガキや封筒に宛名を書いたり切手を貼ったり、ポストに投函することに慣れていない。招待状を発送する方もそうですし、受け取った側も戸惑ってしまって、スマホで調べながら書いたりするんです。

仲の良い友達ではあるけれど、連絡先はLINEしか知らなかったりするような人も多くいます。ニックネームで呼び合うし、LINEの登録名はHN(ハンドルネーム)だったりして、本名を漢字でどう書くかが分からないケースもよくあります。そういう人に一人一人「招待状を送るから、本名と住所を教えて」と聞いて回るのも大変です。教えていただいた後も、それを申込フォームだとかに入力して招待状を発注する。もし間違いがあったらまた再印刷して……ととにかく手間がかかります。

Web招待状なら、「結婚式をするので、こちらに入力してください」とお願いすれば、本名の漢字も住所も本人に入力していただけるし、出欠もすぐ分かります。入力していただいたデータはそのまま席次表にも使えるので、新郎新婦の作業の手間が格段に減り、ゲストリストを綺麗にすることができるんです。サービス提供を始めると、ユーザー様から「結婚式の後に席次表の保管や処理に困っていたので、Webで期限が来たら見られなくなるのはスマートで良い」というお声をいただいたりもしました。席次表は個人情報がたくさん載っているので、扱いに困る人もいるのだなと、新しいニーズに対応できていたことに気が付くことが出来ました。

事業化した2020年は、コロナ禍最初の年で、多くの結婚式が延期や中止になりました。そのような社会情勢のため、Web招待状のニーズは非常に増えています。招待状でも席次表でも、一度印刷してしまうと元に戻せなくて、何か変更があったらもう一度印刷し直さないといけません。再印刷すれば当然その分またお金がかかります。元のものに訂正線やシールで対応するのも大変だし、おめでたい事なのに修正したもので済ませるのはどうなんだ、という疑問もありますよね。Web招待状なら、データを変えれば良いだけなので、日程やメニューが変わっても簡単に対応できます。先が分からない今の情勢の中で結婚式を挙げるお客様にとっては、これらの観点はとても安心できるということで、提携先のウェディングプランナー様がお客様にオススメしてくださることが多いようです。

自分たちの結婚式をしたこととWeb招待状の事業を通して、ブライダル業界にかなり強い関心を持つようになりました。自分たちの結婚式準備の時、思いがけない資料をExcelや手書きで式場へ提出するフローに驚いたので、私たちの強みを生かして役に立てることがあるのではないかと考えています。現在はWeb招待状・席次表の式場向けシステムのご提供の他にも、ウェディングプランナー様の業務のシステム化や、DX(デジタルトランスフォーメーション、デジタル変革)化による式場の売上UP・働き方改革などに取り組んでいます。

実は、ギブリーを退社しよう、独立しようと考えていた頃は、今の事業とは違う構想を描いていました。何かコミュニティ事業をやってみたかったんです。私のように、仕事は好きだけど会社員としてどこかの企業に勤めるには悩んでしまう、それでいて実は起業したらすごく向いている人って結構いると思うんです。私自身も夫と出会うまでは起業するという選択があることさえ意識していなかったですし、転職前はベンチャー企業に勤める友達もいなかったので、そちらに転職すればいいなんて思ったこともなかったです。
でも実際に転職してみて、起業してみて、こちらの方が自分には合っているなあと感じることが多いです。そういう転職や起業のきっかけだったり、起業仲間を見つけられるようなお店を経営したいなと思っていました。でも退社した頃はコロナ禍で、本当にそんなお店を開店したとしても、オープニングパーティーなどのイベントを大々的に開催するのは難しいでしょうし、今はあまりやるべきではないのかなと考えています。それに、私自身が起業家として成功して、その後にお店を運営した方が、お店のコンセプトにしっかりとした説得感を持って取り組めるだろうな、という思いもあり、今ではなく、10年後にオープンでもいいのかな、と考えています。私がお酒好きなのでバーにしたいですね。

コミュニティ事業をやりたいなと思うのは、私が起業家やエンジニアが好きだからでしょうか。起業家やエンジニアというより、チャレンジする人と言えるかもしれません。仕事が好きで、でも現状に満足はせず常に向上心を持ち、楽しみながら仕事をやっているような人。ライフワークのように仕事に打ち込んでいて、社会をもっと良くするために、現状に文句を言うのではなくて自ら行動していく人。私もそんな風に仕事をしたいですし、そんな人達を応援したり、そういう人たちを増やしていきたいな、という気持ちがあります。

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