モチベーションは、私だけそこにはなかった

仕事に誠実に取り組みつつ、ずっとモヤモヤしていた気持ちを抱えていたと仰る村田さん。転職のきっかけとなった違和感について詳細に教えてくださいました。

転職のきっかけとなった違和感は、私はこの会社に合っていないのではないかなという思いです。会社全体の人事評価システムは、ミッションやKPI(重要業績評価指標)が個々人レベルまでしっかり定められています。それらに取り組むモチベーション管理の前提として、社内で表彰されたい、出世してマネージャーになりたい、という価値観があります。一方の私は個人で目立つよりも、社会にインパクトを残す方に興味がありました、たとえば自分の部署が派遣業界のシェア1位になるだとか。でもそれを同僚や上司に伝えても、「それより、目の前の売上TOP目指したり、リーダー目指すほうがいいんじゃない?」というような返答があり、どこか煮え切らない、モヤモヤとした気持ちを抱えていました。

象徴的な言い方をすると、同僚はみんな、営業目標に対して200%達成を目指すんですね。KPIは個々人によって少しずつ違うのですが、それに対する200%を目指します。でも私は200%を目指すことにどうしても興味を持てませんでした。100%までは自分の責任数字だと思ってこなすんですけど、それ以上を頑張ろうとは思えませんでした。100%以降も同じように数字を取り続けるよりは、そもそもこの仕事って何だろうとか、KPIは本当に合っているのかとか、そんなことをみんなで議論する時間にしたり、新入社員や中途採用の方の育成のための時間にしたりだとか、別のことをすることに興味がありました。でもそういう話を同僚や先輩にしても、「そういうのも大事だけど、200%達成して全社表彰される方が目立ってかっこよくない? 目の前のことを本気でやろう!」といった回答が多く、周りとのズレを感じていました。

悩んでいたところに異動した企画の部署では、下っ端でも率直な意見を言った方がいいのかなと積極的に発言していたのですが、あまり歓迎的な雰囲気ではなく戸惑いました。先輩から「貴方の発言そのものではなく、組織の働き方を通して、立ち振る舞いが下手すぎる」と指摘をいただき、営業部とは違う自分の側面も知り、気づいていなかった自分の苦手に気が付くきっかけとなりました。

企画の部署では社内からの問い合わせ対応をすることも多かったのですが、その対応に時間をかけすぎだと指摘されましたね。私はその先に何かサービスを拡大させるヒントがあるんじゃないかと思って真摯に対応していたのですが、その様子を見て「それは貴方のミッションじゃない」と言われてしまいました。ミッションに定められていないから積極的にやるべきでない、時間をかけなくていい、ということなんです。会社の制度としては確かにそうなんですけど、そのあたりも、私の価値観とは違うなあと。そういう姿勢で仕事をしていると、まじめに仕事をしていない、と誤解されてしまうのも辛かったです。
当時は自分の価値観や想いをうまく言語化して認識できていなかったので、漠然とモヤモヤした気持ちをずっと抱えていました。今思うと、生意気なところも多かったと思うので、誤解を生んでいたのは価値観の違いだけではないのかもしれませんが。ただ、悩んでいたことに気が付いてくださった上司もいて、その方から読書を勧められました。ストレスがたまった時に本を読むと、解決法が一つ増える、二つ増える、みたいな、自分の狭い檻の中で悩んでいた自分に気づくような体験があるんだよ、と教えて頂いたと思います。

三つ目の部署では、外注エンジニアやコンサルティングの方など、社外の方とお話しする機会が増えました。お話しているうちに、「私と肌が合うのは今の会社ではなくてこっちなんじゃないか」という気がしてきたんです。人材を派遣する側よりも、派遣された先の事業、とりわけITベンチャー業界に興味を持ちました。先方は先方で「村田さんはこっち側じゃないですか!」と言ってくださったりして、彼らがいるITベンチャー業界って面白そうだな、という気持ちがどんどん大きくなっていきました。

転職先は株式会社ギブリーというITベンチャー企業です。当時はITエンジニアのスキルチェックツールを提供していて、採用や育成評価の支援に使われていました。紹介されて参加したセミナーにギブリーの方が登壇していて、エンジニアのスキルという目に見えないものを定量的に判断できるのがすごく面白いなと思いました。

エンジニアの方って面白い方が多くて、新しい世界を作るために自分のスキルを活かす、そのために常に勉強して成長していくような方が非常に多いなという印象で、リクルート時代から最高のリスペクトを持っていました。そんなエンジニアの方がよりよく働ける環境を作りながら、私自身もエンジニアの方向けのサービスを作って、彼らと一緒に成長していきたいなという気持ちがありました。ギブリーのスキルチェックツールは、私が思い描く世界観を作っているツールの会社だと感じて、事業にすっかり惚れ込んでしまいました。

入社して就いたのはカスタマーサクセスという職種です。顧客のLTV(ライフタイムバリュー、顧客生涯価値)の向上を目指します。既存顧客の満足度向上や、追加機能のご購入を目標に取り組んでいく部署です。SaaS(サース、Software as a Service)による月額利用料金でサービスを提供するようなITベンチャーなどがLTVに取り組むことが増えているようですね。
入社して実際に仕事をしてみて、前社時代と比べて「自分はこっちだった!」とめちゃくちゃ思いましたね。もっと早くベンチャーに転職しておけば良かったと思いました。意思決定スピードが速いし、報告資料の作成よりも顧客やサービスに向き合うのが勤務時間のメインタスクです。そして個人の目標よりも事業部全体の目標をみんなで達成しよう! という空気をまざまざと感じました。 しばらく充実感をもって働いているうちに、私は組織作りに興味があるんだな、という事に気が付いていきました。在職していた1年9か月の間に組織も一気に大きくなり、入社当初とは違う組織・育成などの社内制度が必要になってきました。その新しい社内制度について、私なりに思うことがあったのですが、そこで自身の組織や個人の働き方やキャリアに対する強い興味関心に気づき、自分で組織を作る側になりたいと考えるようになりました。

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